番外:富士そば浦和仲町店の試食会に行ってきた |
「メニューづくりは店長に一任されている」「店舗独自メニューが自由すぎる」。富士そばがメディアに登場するときは、この手の文脈でクローズアップされるのがお決まりになっている。
その“ゆるさ”こそが富士そばの魅力のひとつであることは間違いない。実際、メニュー化直前の社長のチェックは、ほぼ100%の提案に許可が下りるといわれているし、そのエピソードを私も面白おかしく人に聞かせたことがある。
こう書くと、店長の思いつきだけでメニューが提供されているのだと誤解を生む恐れがあるので、もうすこしていねいに説明しよう。
メニュー化にあたり、店長がまずお伺いを立てるのが、店舗を管轄するエリアマネージャーである。エリアマネージャーは、挙がってきたメニュー案を厳しくチェック。味の良し悪しは言わずもがな。客の需要はあるのか、調理の手間が厨房の回転率に影響しないか、近隣店との差別化できるのか。富士そばといえども、戦略なしにメニュー化は叶わない。
そして、「売れる」とジャッジされたメニュー案が晴れて、社長に提案される。そこまでの過程でどれほどのアイデアがボツになるのだろう。世に出るメニューの陰には、泥臭い悲喜劇が展開しているのではあるまいか。だからこそ、努力と情熱が注がれた一杯に、私は魂を揺さぶられる。
■運営会社によって独自メニュー
「北千住東口店」のように独自メニューを量産する店舗がある一方で、定番メニューだけで勝負する店舗もある。「品川店」のような来店数の多い店舗は、メニューで差別化せずとも競合店に充分太刀打ちできる。
そもそも、店長が独自メニューにこだわっていない店舗もあるだろう。
独自メニューの有無は、運営会社の意向も関係しているのではないか。約130店舗ある富士そばは、ダイタンホールディングスを親会社とする9子会社に運営されている。それぞれが独立しており、競合関係にあるのが面白いところ。
長く富士そばを観察していると、運営会社の性格もなんとなく見えてくる。独自メニューの開発に積極的な運営会社もあれば、各店のメニューに統一感をもたせる運営会社もあるのだ。
主観では、ダイタンイート、ダイタンキッチン、ダイタンディッシュは後者にあたる。各店で券売機のメニューに統一感があり、「統率」の意思を感じさせるからだ。富士そばがゆるいといってもチェーン店に変わりない。独自メニューがないのは物足りないけれど、3社の方針は至極真っ当なことだし、否定するつもりはない。各子会社の意識の集合体がひとつの「富士そば」をかたちづくっているのだ。
■富士そばの試食会に行ってきた!
8月初旬、「富士そば友の会」の会長・誠庵さんと会員・友之助さんとの3人で試食会に参加した。店舗は埼玉の「浦和仲町店」。なんと、運営するのは“堅実派”のダイタンキッチンである。
聞けば、試食会はある店員の一存で催されたという。つまり、運営非公式の個人プレイということ。他店の独自メニューに感化されて、独創性を爆発させる場を設けたかったのだろうか。功名、反骨、反目、革命……。様々な言葉が脳裏をよぎる。
試食会には4品が用意された。食べた感想を簡単に記す。
①ばくだんそば
海鮮居酒屋で提供されている「ばくだん丼」をそばにアレンジしたもの。別皿によそわれたカニカマ、おくら、納豆、卵黄、油揚げ、とろろ、揚げ玉を客みずからが混ぜて、そばに盛りつける。従来はマグロの切り身を使うが、富士そばらしくカニカマで代用した。
彩りよし、食べごたえよし。トッピングがそばに絡みにくいのが課題である。

カレーのスパイスを使って食べるラー油を自作。トッピングの主役に据えた。ヤングコーンやパプリカを添えて、彩りも重視する。提供された4品のなかで、最も評判のよかった一杯。

ピザのエッセンスをそばに応用。かけそばに乗せたピーマン、玉ねぎの上からチーズをかけた。つゆにはピザソースも入っていて、見た目に以上に「ピザ」している。「サラミがあれば完璧」という意見も。

和菓子の要素を取り入れ、くずきり、ゆであずき、タピオカ、生クリームを添えた。そばをすすると黄な粉がほのかに香る。見た目のまとまりがよく、食べられないことはない。

こちらは前回の試食会で提供されたものである。「代官山店」のとうもろこし天より衣が薄め。とうもろこしの甘みが強く、温そばでも個性を主張できそう。

とはいえ、ほかの運営会社が興味を持つかもしれないし、偉い人の目に触れれば奇跡が起きて「浦和仲町店」での販売も決まるかもしれない。
異端児が投じた一石は、本部にも波及するのか。いちファンができることはこうしてブログやSNSで発信することくらい。期待半分、不安半分。今後の行く末を見守りたい。