スパゲッティやパスタを外食する機会は比較的多く、ファミレスに行けばメニューを複数取りそろえているので選択肢は広い。それでも私は決まってミートソース系を選ぶから、「カルボナーラ」「アマトリチャーナ」「ペペロンチーノ」などの色の薄いメニューとはあまり縁がない。挙げた三つのメニューは年に一度は食べる程度なのだけど「ボンゴレ」というのはまだ未知の領域。貝類は好きだ。しかし、あの殻から身を外すわずらしさが敷居を高くさせる。手間がかかるボンゴレよりもミートソース系の方が満足できるという期待もある。
ところが、私もとうとうボンゴレを食べなくてはいけないときがきた。避けてきた現実と対峙するときがきた。私が選んだ店は富士そば「原町田店」。しかも食べるのは整調とは言いがたい「冷やしあさりのボンゴレ風そば」(480円)だ。こうでもしなくては私がボンゴレを食べる機会などそうそうやってこない。
「ボンゴレ風そば」は、冷たいそばの周囲を取り囲むようにあさりをトッピング。まるでバリケードのように、中央の水菜を包囲する。
器の底にはいつものそばつゆではなく、色の薄い出汁系のつゆが。一口すすると、さっぱりした味わいのなかに、どこかアサリの出汁が香り、ニンニクの風味が後追いしてくる。うん、おぼろげながらボンゴレの輪郭が見えてきた。
私はどちらかというと薄味が好きなので、すいすい食べ進める。しかし、半分ほどそばを消費しかけて問題が発生。店員さんが「すみません! つゆを忘れていました!」と、そば猪口を持ってきたのだ。
見たところ、盛りそばなどで提供されるいつものそばつゆだ。置いていったのはいいんだけど、使い方がわからない。そば猪口の使い方としては、つゆにそばを浸けるのが正解なのだけど、そばにはすでに味がついているのだ。器のなかにつゆを注ぐことも考えたけど、そんな回りくどい食べ方はさせないはずだ。
結局、そば猪口の使い途は明かされることなく食後を迎えた。これで、私のボンゴレ初体験は完結したと言っていいのだろうか。釈然としない思いだけがのこり、私は店を出た。
希少性:★★☆ インパクト:★★★ コスパ:★☆☆