211杯目:富士そば後楽園店でスパイシーかつ丼 |
職業柄、飲食店を取材する機会も多い。カレー屋とかエスニック料理を紹介するときの惹句で頻繁に見られるのが「スパイシー」という表現だ。香辛料の刺激的な辛さ、鼻腔をくすぐる芳醇さ、あと引く香味……さまざまな魅力が凝縮された便利な表現。「旨み」「あじわい」「コク」に並ぶ、グルメ―ページ頻出ワードと言っていい。私もよく使ってしまうので、思わず襟を正した次第。
しかし、この「スパイシー」という言葉、とても曖昧だ。香辛料が利いている状態を形容している表現であることは世間に浸透しているものの、じつのところ辛さの度合いについては、この言葉には一切ふくまれていない。にも関わらず、我々は「スパイシー=おいしそう」と、好意的に捉えてしまう。これは危険だ。
その例の最たるは、富士そば「後楽園店」の「スパイシーかつ丼」(520円)。メニューにその名を見つけたときは「またヘンなものを……」と、一応の興味はもったが特に目をひくようなビジュアルでもないし、これまでの「辛い系」と比較したらインパクトも劣る。
味はというと「辛い」に尽きる。とにっっっっっっかく辛い! 口に含んで最初にくる味覚が辛さ。掛け値なしの激辛。暴徒鎮圧、痴漢撃退にも使えるほど。かつ丼の味なんて感じる余裕などなく終始辛さとの闘いだ。たちまち鼻水が垂れだし、涙もにじむ。作りたての熱々がより刺激を誘う。二口目で後悔の念がおしよせる。勝手な話だが、メニューを開発した店長に恨みじみた気持ちさえ起こってくる。まあ、味の詳細はロケットニュースとかがレビューしてくれるだろう。
券売機のポップをよく見たら小さく「激辛注意」とあった。きっと見落としてしまう人もいるだろう。ケータイの契約書かよ……。暴力的なメニューを「スパイシー」「激辛注意」だけで済ませてしまう店長は、サイコパスの気質があるのではないか。お昼どき、知らずに食べてしまったサラリーマンを想像して心がかき乱される。
「ヒッヒッヒッヒ・・・・・・」。厨房から、店長の悪魔じみた笑いが聞こえてきたような気がする。
希少性:★★★ インパクト:★★★ コスパ:★☆☆