富士そば「浜田山店」の厨房では、客足が途切れた合間を見て、「こね作業」が行われる。粘土状のようなものをこねこねする。べつに遊んでいるわけではなく、「こね」は「浜田山店」にとって大事なオペレーションのひとつなのだ。こねなくして浜田山店たりえないのだ。
なにをこねているのかというと、そば生地だ。じつは、この店、富士そばで唯一、打ちたてのそばを提供するのだ。厨房には競合店の「嵯峨谷」のような「そば切りマシーン」(正式名称不明)を設置。
生地をマシーンに投入すると、そばがにゅ~とところてん式に押し出され、それを店員が網でキャッチ。真下の寸胴に投下する。そばが茹であがるまで、待つこと数分。 注文したのは「豚つけそば」(490円)。そばは従来の店舗と異なり、乱切りで平たい形状。切り口もエッジが利いている。テクスチャーは乱切りのほうが好み。そば粉と小麦粉の割合は、おそらくこれまで同様4:6。嵯峨谷の十割そばより、おいしく感じるのは生来の貧乏舌と慣れのせいか? せいろになんて盛られちゃって、富士そばのくせに生意気よ!
後悔しているのは、より“本格風”の「海老天せいろ」にしなかったこと。おなかが空いていたので、ついガッツリ系を頼んでしまったのだ。あたたかいそばを注文した客にもマシーンを稼動させていたけど、はたして、うどんはどうなのか。
くやしかったのは、乱切りに感動しているのは店内で私だけ、ということ。「浜田山店」は、2015年にオープンしたばかり。富士そば文化が根付いていない周辺住民にとって、そば切りマシーン導入は、「厨房設備が変わった」くらいの感覚でしかないのだ。正直、くやしい。客一人ひとりに説いたところで、店員に追い出されるだけだ。これまた、くやしい。行き場のない感動は、いまだ胸のうちでマグマのように沸々と煮立っている。
希少性:★★★ インパクト:★★★ コスパ:★★☆