前々から、かき玉の威力は凄いなと思っていた。鶏ガラスープに入れるだけで、あっという間に玉子スープになるし、味噌汁やインスタントラーメンに入れると気絶するくらい美味い。とき卵を投入するタイミングや加熱加減によって、食感や味の印象が大きく変わる。だから、調理する者もこだわりがいがある。料理男子もカレーやチャーハンの調理にこだわる前に、その情熱をわずかでもかき玉に注いでほしい。
お手本になるのが、富士そば「新宿店」の「かき玉そば」(400円)。まず、見た目が美味そう。綺麗に添えられたほうれん草やネギ、てろっとしたかき玉の照りなど、見るからに食欲がそそられる。かき玉を箸で持ち上げてみる。くずれるか……いや、くずれ………ない! というくらいの絶妙な加減で、ムラなく均等に火が通っている。つゆをすすると、なんとおろし生姜が。「良い仕事してますね」。ふいに、中村誠之助の生霊が降りてきた。
調理したのは、東宝怪獣を思わせる名のアジア系外国人店員。隣で調理を見守るのは初老店員。この初老店員がまたいい味だしているのである。「トキタマゴイレマス」「おぅ」「ソバオネガイシマス」「うぇい」。カタコトの日本語に、ダミ声が呼応する。極めつけは、店を出る客にかける「ありゃしたっ」ね。「ありがとうございました」って言ってんだけどね。「ありがとうございました」が、長い年月をかけて、滝壺の岩盤がいつしかつるつるの小石になるように「ありゃしたっ」。一朝一夕では到達できないよ。「かき玉そば」も初老店員のアイデアなんじゃないだろうか。
希少性:★★★ インパクト:★★★ コスパ:★★★